つながるファブリーコミュニティ専門家インタビュー

ファブリー病の症状の変化と経過観察

Q なぜ長い期間、ファブリー病の経過を観察していくことが重要なのでしょうか

A

経過を診ていくことで、将来のQOLの向上・元気な日常を送り続ける可能性がひろがります。

病気の進み方のペースや度合いは、古典型、遅発型、女性ヘテロ接合体型で大きく異なります。症状が軽かったり、検査結果が正常範囲内であったりすると、症状の変化に気づくことが難しくなります。自分の症状は、他の人と比較できないですし、比べる機会もないからです。

心臓の症状は、重篤な結果につながることがあり、とくに注意して経過を診ていく必要があります。

腎臓に関しては、尿に少量のタンパクが出ただけでは患者さんの日常生活に影響はありません。一方で、患者さん自身は想像したくないでしょうが、タンパク尿が続くと、将来、透析になるかもしれません。

女性患者さんの場合、透析に至ることは少ないのですが、男性同様に、脳梗塞などの脳血管障害、心肥大や心機能低下、不整脈などの心血管障害の症状が出ることがあります。

そのようなことも起こりうるということを、理解していただくことが重要です。

A

時間をかけてご自身に適した診療の方針を決めていきます。

患者さんの将来について、一度に全部お話ししても理解は難しいと思いますし、人は見たくないものから目を背けがちです。患者さんの将来について、病気の経過を診ながら、時間をかけて、少しずつ、話し合っていくことが必要です。

また、現在の治療は、痛み止めのように、すぐによくなったと実感できるような治療ではありません。治療の途中で薬剤の効果が低下してしまうケースもあり、その場合は別の治療を検討します。

症状の変化を参考にしながら、治療の効果を評価していくことも重要です。

Q 腎臓の症状は気づきにくいですが、どんなことに注意したらよいでしょうか

A

尿検査を行って、腎臓の様子を診ていくことが重要です。

まずは、職場の健診や学校の検尿で、タンパク尿が出ているかどうかを調べることです。

腎臓の場合、早期の診断は難しいかもしれませんが、タンパク尿だけ出ている段階であれば、まだ比較的早期だと言えます。腎臓の機能が低下してくると、病気の原因となる不要な物質がかなり蓄積し、病気が進んだ状態ということになります。

腎臓に症状がある方は心臓にも症状が出る可能性があります。つまり、脳や心臓、腎臓などの血管が障害を受けていくということです。

ですから、腎臓を診ながら、心血管系にも注意していきましょう。

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Q 早期診断と治療、そして治療の継続にはどのような意義があるのでしょうか

A

人生の質、生活の質、そして寿命にかかわります。

ファブリー病の治療薬には病気の進行を遅らせる効果があると、臨床試験で認められています。できるだけ早く、臓器の機能的な障害が起こる前に治療を始めることで、病気の原因となる物質の蓄積を減らし、症状の進み具合を弱めることができ、将来の人生の質が変わってきます。

診断された時に症状がなくとも、臓器にファブリー病に特徴的な所見があれば、将来、臓器の障害となって現れることがあります。腎臓組織であれば腎臓機能の障害(腎不全)に進んでいく可能性があります。

早期に治療を始めれば、透析を遅らせる望みが出てきます。それは10年の差かもしれませんし、5年の差かもしれません。透析をすることなく、一生を終えることができるかもしれません。早期に診断し、早期に治療を開始することは、人生後半の生活に、さらに寿命にも影響します。

脳、心臓、腎臓などの機能に障害が出てからでは、治療をしても効果が限定的になってしまいます。ご自身の将来のためと思って、地道に治療を続けて、症状の変化を遅らせることが大切です。

A

治療の継続は医師と二人三脚で。

治療をしていても腹痛や下痢などの症状の改善を実感できなかったり、薬剤による治療をした日はかえって調子が悪いということもあります。そんなときは、治療を止めようと考えるかもしれませんが、治療を中断すると症状が進んでしまうこともあります。ご自身で判断せず、気になることは医師と相談しましょう。

ファブリー病は、生涯、治療を続けていく病気です。現在の患者さんの健康状態、家庭や社会環境などを考慮する一方で、患者さんの未来像も想像しながら、治療をしていく必要があります。

Q 経過観察では、どんなことに気をつけたらよいでしょうか

A

日々の症状の変化に注意を向けることが重要です。

聴力低下や腹部の症状は、比較的気づきやすいかもしれません。脳梗塞を疑わせるような症状*が出たときは早めに受診してください。ただし、神経質になりすぎないように。

*半身がしびれる、手に持っているものを落としてしまう、歩きにくい、言葉が出てこない、ろれつが回らないなど

定期的に通院して日々の症状や検査結果の変化を医療スタッフと共有することは、経過を観察するうえで非常に大切なことです。

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Q 食事や運動、生活習慣に関して、どんなことに気をつけたらよいでしょうか

A

生活習慣病はファブリー病の変化に影響を与えます。

糖尿病、高血圧、肥満などの生活習慣病がファブリー病に重なると、臓器の障害が進みます。

喫煙も当然のことながら悪影響を及ぼします。

節度ある食事、とくに高血圧を起こさないように、塩分の摂り過ぎに注意しましょう。

適度な運動も重要です。しかし、運動後に激しい痛みを感じる場合には、過激な運動は控えて、ご自分のできる範囲内で、あまり無理せずに運動していただくとよいでしょう。運動は、寿命を延ばす効果もあると思います。

Q 新生児スクリーニング検査を機にお子さんが診断されたお母さんへ伝えたいこと

A

将来のお母さんの状態を想像しながら、経過を診ていきましょう。

最近では、お子さんの新生児スクリーニング検査を機に、お子さんの母親が診断されることが増えています。そのとき、母親としては、お子さんの病気のことでショックを受けていることもあり、ご自分の病気とこの先のことに関しては、あまり考えられないというのが実情です。育児だけでも大変なのに、お子さんの病気のことを考えると、自分のことは後回しにしてしまう方も多いと思います。

さらに、ファブリー病の点滴治療には時間がかかることもあり、治療を希望されない方もいます。女性患者さんが仕事をしている母親である場合は、家事・育児に仕事と多忙な中での治療は、現実的には難しいことが多いからです。

ですから、日常生活で問題となる症状が出ていない場合は、「育児や仕事などが落ち着いてから診断をしましょうか」というように話をしています。お子さんの診断によるショックを少しずつ和らげながら、今まで生きてきた中で感じていた症状を丁寧に尋ねていきます。そして、少しずつ、慌てず、時間をかけて、信頼関係を構築していきます。

また、お母さんは実は症状が出ているのに、診断、治療の機会を失っているかもしれません。お母さんに対して、「あなたも将来、治療が必要になるかもしれない、だから絶対、ご自分の症状を無視してはいけませんよ」と伝えています。

たとえ今は症状が出ていなくても、お子さんが成長した時期の、お母さんの未来像を見据えながら、経過を診ていきましょう。

現在、経過観察中・治療中の方へのメッセージをお願いします

坪井先生

坪井先生

世の中には、治療法が全くない病気が数多くあります。しかし、ファブリー病には、病気の進行を遅らせることが可能な、しっかりとした治療法があります。運命に身を任せる病気ではなく、抗う(あらがう)ことができる病気です。
将来を考えたとき、現在の症状が重い、軽いということだけが問題ではありません。今の症状だけに目を向けるのではなく、10年後、20年後、さらには人生全体を見据えて、ご自身の病気と向き合っていただきたいと思います。

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