つながるファブリーコミュニティ専門家インタビュー

遺伝とこころの不調に向き合う
~気持ちを楽に、自分を大切に~

お答えいただいたのは…

鎌田 依里 先生

東京福祉大学

心理学研究科/心理学部

講師 鎌田 依里 先生

今回教えていただいたポイント

ファブリー病は遺伝子の変化により起こる病気です。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうることで、誰のせいでもありません。
しかし実際には、周囲の理解不足により、それが悪いことのように捉えられ、悪い意味の印としての扱いを受けること(スティグマといいます)もあります。
スティグマに悩まされ、嫌な経験をしてしまうと、自身のメンタルヘルスを悪化させる要因になる場合があります。
こころの不調を和らげて、自分らしく生きるためにできることを、こころの専門家として長年にわたり難病患者さんの相談を受けておられる臨床心理士の鎌田先生に伺いました。
つらくても、ほんの少しだけ、進んでみようよ。その先になにかいいことがあるかも・・・
つらくても、ほんの少しだけ、進んでみようよ。その先になにかいいことがあるかも・・・
自分を責める気持ちが強いとき
自分を責めてしまう気持ちの背後には、「こんなふうにはなりたくなかった」、「もっと幸せになりたかった」、「自分自身を許したいのに許せなくて苦しい」などの、現状を受容できない気持ちがあります。

また、今の日本の社会には「病いを受容できることがよいことだ」という誤った認識が流布しています。

人間なのだから受容できなくて当然です。自分を責めて、現状が好転するのであれば、思う存分責めるのもよいですが、自分を責めても現状は好転しません。「現状が少なくともよい方向に向かうことは何か」に視点を変えて、自分のこの先の言動を選択してみましょう。

とにかく不安なとき
夜は22時までには就寝するようにしましょう。

そして、携帯電話などは見ないで、目を閉じてリラックスできる音楽を流してみるのもよいかもしれません。
睡眠時間を十分に確保することによって、1か月くらい経つと精神的な健康は改善に向かいます。これは間違いありません。
また、不安なときに、近くに信頼できる相手や家族(パートナー)がいる場合には、相手のぬくもりに包まれて眠る、手をつなぐ、ハグしてもらう、などの行動だけでも不安は少なくなります。
近くに家族(パートナー)がいない場合には、信頼できるパートナーとお揃いの品や肌触りのよいハンカチタオルなどを身につけておき、それを精神安定の御守りとして握るなどの行動も不安を軽減させる効果があります。

不安は、際限なく拡がっていく性質をもっています。
不安なことを考え始めたり、不安なことに意識を集中させてしまうと不安は拡がります。不安なことを話す際には、現実的に不安を解消することができる方向に話を向けることも大切です。
楽しかったこと、幸せだったこと、嬉しかったことを具体的に思い出すこともよいでしょう。ただし、安易な慰めを与えるものには近寄らないようにしましょう。

「自分のことはどうでもよい」と自暴自棄になったとき
自分の大切な人のことを強く思い浮かべてみましょう。

自分の子どもやパートナー、家族の幸せな生活を具体的に想像すると、自分自身が心身ともに元気でいようと思うようになり、自暴自棄になってしまう気持ちを軽減させることができるかもしれません。
人は本来、社会的な生き物です。相手が笑顔でいると、それにつられて笑顔になる素直さを生来有しています。
人は少なくとも自分の右にいる人と左にいる人には影響を与えます。

あなたが自分のことを大事に扱うことで、子どもに「人を大切にするとはどのようなことなのか」について身をもって教えられると思えば頑張れるかもしれません。
ただ、その前提として、自分にとって「大切な人」をつくっておく必要があります。
日々、人間関係を大切にしながら、丁寧に生き、自分と周囲の人の幸せを願い、誠実な言動を行うことによって、自分のことを大切に想ってくれる人と巡り会うことができます。

「自分の病気は親のせい」と怒りの感情を持ったとき
人はどうしようもならないことを「誰かのせい」にしたくなります。

「誰かのせい」にしたくなることを、自分の生まれたルーツと結びつけて親のせいにすることで楽になります。また誰かのせいにすることで、自分一人で責任を負わなくてもいいという気持ちになります。
自分の病気は、本当に親のせいですか?自分が悲劇の主人公なのだと甘えていませんか?実は親があなたの一番近くで、哀しみや辛さを分かち合い、苦労をともにしてきたのではないですか?もちろん親も一人の人間ですから、うまくできなかったこともあるでしょう。

言葉は「言霊」といって大きな力(影響力)を持っています。
悪い、汚い言葉は親を傷つけるだけではなく、自分の耳からまた入ってきて自分のこころも傷つけます。
怒りをそのまま親にぶつけるよりも、自分の怒りがどこから生じてきているのかを素直に見つめ、怒りとして表出しない代わりにそのエネルギーを建設的な方向に放出できるとよいです(例えば、怒りの感情をスポーツに昇華させるなど)。

他人の心無い言葉に傷ついたとき
自分のことを大して知らない他人が発した無責任な言葉で傷つくことは確かにあります。

しかし、人生の時間は有限です。その他人はその人自身が抱えている問題への怒りや不満を見ず知らずのあなたにぶつけているだけという場合もあります。

自分の人生の時間を見ず知らずの他人に傷つけられ、悲しむ時間にするよりも、自分の大切な人との穏やかな時間や自分の好きなことに励む時間にしたほうが、同じ時間を過ごすのであれば、こころの健康を維持するためにはよいと思います。
自分の人生なのですから、見ず知らずの他人のストレス発散の対象となるのは悔しいです。怒りや悲しみは連鎖します。

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