つながるファブリーコミュニティ専門家インタビュー

遺伝とこころの不調に向き合う
~気持ちを楽に、自分を大切に~

お答えいただいたのは…

鎌田 依里 先生

東京福祉大学

心理学研究科/心理学部

講師 鎌田 依里 先生

今回教えていただいたポイント

ファブリー病は遺伝子の変化により起こる病気です。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうることで、誰のせいでもありません。
しかし実際には、周囲の理解不足により、それが悪いことのように捉えられ、悪い意味の印としての扱いを受けること(スティグマといいます)もあります。
スティグマに悩まされ、嫌な経験をしてしまうと、自身のメンタルヘルスを悪化させる要因になる場合があります。
こころの不調を和らげて、自分らしく生きるためにできることを、こころの専門家として長年にわたり難病患者さんの相談を受けておられる臨床心理士の鎌田先生に伺いました。
あの場所まで行こう。まだ行ったことのない場所へ。いつだって、どこだって行けるんだ、私の気持ち次第で。前を向いてきて、よかった!
あの場所まで行こう。まだ行ったことのない場所へ。いつだって、どこだって行けるんだ、私の気持ち次第で。前を向いてきて、よかった!
気分の起伏が激しいときに自分でできる対策は
まずは、ゆっくりと、5回、深呼吸をしてみましょう。

そして、自分で自分の状態について言語化してみることが対策として考えられます。 「あぁ、今、すごく気持ちが楽になっているなぁ」とか「なんだか、だんだんと気分が落ち込んできてしまった」など、自分のこころの在りようを素直に言葉にしてみましょう。
最初は難しいはずです。それでも素直にこころの在りようを見つめてみて、「気持ちが楽になった」ときには何があったか、その前後や背景にあることを見つけたらその行動を増やせばいいし、「落ち込んできた」ときに何があったかを見つけられたら、それを避けたり軽減させたりすることができるようになると思います。少し自分を俯瞰するようなイメージを持つと、自分にピッタリ合った対策が立てられるかもしれません。 (もちろん、自分でするだけでなく、臨床心理士との共同作業をしてもよいかもしれません。)

予め、日常生活の中に、ちょっとした、元気になるモノを取り入れておくのもよいでしょう(日常生活の中に自分のこころを穏やかにするモノを常々取り入れておく準備行動によって、気分の起伏が穏やかになることも想定できます)。
そして気分の起伏が激しいときに、例えば、お気に入りの食器でお茶を飲む、書きやすいペンを使う、育てていた好きな花を愛でる、好きな景色を見にいく、星を眺める、などの行動がすぐにできる準備をしておくのもよいと思います。
じたばたせずに、たとえ寝付けなくても、横になって寝ようとするのもよいと思います。

落ち込みから回復するには
落ち込むという状態は、こころのエネルギーが0(ゼロ)になっている状態です。

落ち込んでいるときにもっと頑張ってしまうと、こころのエネルギーはマイナスになり、さまざまなところに悪影響を及ぼします。落ち込みから回復するためには、まずこころのエネルギーを回復させることが重要です。

そのためには、とにかく休養することが一番です。
何もしない、ぼーっとした時間をつくること、とにかく、好きなことだけをする時間を確保すること、安心できる場で過ごすことが重要です。

こころの不調を感じたときに頼る先は
まずは主治医を頼ってみましょう。

もちろん医師はあなたのからだのことについて一番頼りになる存在ですが、からだとこころは密接に影響し合っています。
からだのことで安心できると、それだけで、少しこころが軽くなります。

その上で、「どう生きたいか」に関することをはじめ、こころの不調の背景にあることを丁寧に探って解決していきたいと思う場合には、臨床心理士の資格を有している人を尋ねることもよいでしょう。
各都道府県にある難病相談支援センターも信頼できる相談場所です。お一人でも、ご家族で相談に来ていただくのでも、構いません。

こころがしんどいときにやってみて欲しいこと
こころにゆとりをつくるために、まずは衣食住の環境を
見直してみましょう。

例えば、「衣」:身だしなみを整えてみる、経済的にも考慮した上でウインドウショッピングをしてみる、今までとは少し違った服装をする、化粧をする、ネイルをする、髪型を変えるなど。
「食」:行ってみたかったお店で外食をする、新しいメニューをつくる、レシピ本を参考にして料理をつくる、彩のよいアレンジをするなど。
「住」:身の回りを見渡してみましょう。あなたの周りは片付いていますか。片付けをして整理をしてみましょう。
衣食住の環境を整えたり、少し今までとは違ったものを取り入れたりするだけで、気分転換ができます。もちろん考える事項は多くありますが、頭を悩ませるだけではなく、衣食住のポイントに目を向けて、できることから少しずつ取り組んでみるのもよいかもしれません。
また、日本は四季に恵まれています。
日本の四季を楽しむ時間を生活の中に取り入れてみるのもよいかもしれません。例えば、春であれば桜を見にいく、5月になったら藤や牡丹など、さまざまな花が咲き誇るようになります。少し外に出て、風の心地よさを感じながら、青空を見上げ、周りの自然に癒されるのもよいでしょう。

「しんどい」と感じることは悪ではありません。
どんな感情も大切な自分の感情です。なかったことにしないで、「あぁ、いま私、しんどいなぁ」と少し客観的に思ってみてください。そして、しんどいときには無理して頑張らないことが肝要です。こころのエネルギーが0になっているので、休養してください。この休養のときには何もしなくてよいですが、ちょっとやってみようと思った場合には先に述べた衣食住のポイントに取り組んでもよいですし、ふらっと自然に癒される体験に向かってもよいです。
もしも、何か頑張ることによって、このしんどい状況が改善できそうであれば、ちょっと踏ん張って行動してみるのもよいでしょう。
家族に、自分の気持ちを話すことも大切です。そして一方的に話すだけではなく、相手の気持ちを聴くこともこころがけてみましょう。そうすると何かがお互いの中で生まれてきます。 楽しい思い出を振り返って話をしたり、これからの、なりたい自分や家族について(やりたいことも含め)想像して話したりすることもよいです。